まぬけじる日記

もうすぐ不惑を迎える男のまぬけな日常を描いた雑記です。Twitter:@manukejiru

顔のイボに悩んでいるおっさんは今すぐ化粧水を塗りたくれ

 ある時、顔を洗っていたら、アゴのあたりに何やら違和感があったので、よくよく鏡を見てみると、白くて小さなデキモノがあるのを見つけた。

 どうやらこういうデキモノは、持ち主が二十歳を過ぎたらニキビとは呼ばずに吹き出物と呼ばなければならないと法律で決まっているらしい。もともとは同じものなのに、ハマチがブリになったりニキビが吹き出物になったり、せわしないことである。

 アゴに吹き出物ができるくらいのことで取り立てて騒ぐほどでもなかろうと思って放置していたが、吹き出物の方も存在感をアピールしたいのか、しばらく見ない間に大きく成長してしまった。まるで親戚の子供のようだ。よくよく注視してみると、その吹き出物は表面が滑らかではなく、例えるならばイソギンチャクのように無数の繊維が結集したような感じで少しグロテスクである。

 こうなってしまうと僕の方も吹き出物が気になってしまい、手持ち無沙汰になるとついつい吹き出物をいじくるようになってしまう。それが裏目に出たのか、吹き出物はどんどんサイズを増すばかりである。どうやら乳首と男性器以外にも、弄れば弄るほど大きくなるものがもう一つできてしまったようである。。。などと感慨に耽っている場合ではない。

 このまま放置しておくのは百害あって一利なしである。一念発起して、人差し指と親指の爪をうんと鋭くしておき、一思いに吹き出物をちぎり取ってやったところ、出血量が想定を大幅に上回ってしまい、4、5枚のティッシュが真っ赤に染まる事態となってしまった。しかもTPOをわきまえずに、社外での打ち合わせの場でそれをやってしまったため、先方も目の前の男がアゴの下からだらだら血を流しながら説明をしたり聞いたりしている様に若干引き気味の様子であった。とはいえ、これでついに数週間僕を煩わせていた吹き出物ともお別れである。勇気を出して毟り取って良かったなあ、という達成感もあり、この時ばかりは僕の気分も晴れやかであった。

 ところがそんな晴れやかさも長続きせず、しばらくすると、いつかどこかで感じたような違和感が再びアゴの下に感じられるようになり、さらに時間が経つと、同じところに再びイソギンチャクが居座るようになってしまったのである。こちらとしては既に一度強制退去させているイソギンチャクなので、前回の要領で再び毟り取ってやったのだが、しばらくするとまたイソギンチャクが復活してしまう、といういたちごっこの様相を呈していた。思うに、このイソギンチャクには核のようなものがあり、それを完全に除去しない限り、イソギンチャクは育ち続けるのだろう。まるでドラゴンボールのセルである。

 どうやらイソギンチャクを排除するのは難しそうだということが判明したため、僕は融和路線に切り替え、このイソギンチャクと共存する道を歩んでいくことを決意した。まあドラゴンボールのセルに比べれば、人間を吸収して街をひとつ廃墟にするなんてことはないので穏やかなものである。今まではある程度の大きさに達すると爪で切除していたが、もしかするとまだ成長の余力を残していて、もうしばらく育てると知能が発達し、話でもしはじめるかもしれない。そんな風に考えると、あれほど憎かったイソギンチャクにも段々と愛着が湧いてくるというものである。

 
 こうしてイソギンチャク愛護主義者に転身した僕は、一ヶ月半ぶりに床屋に行き、散髪をした後にヒゲを剃ってもらっていると、理容師さんもイソギンチャクを除けながらヒゲを剃るのに骨が折れるようだった。万一手元が狂ってイソギンチャクを剃り落としてしまったら大変な流血騒ぎになって面倒だと感じていたのだろう。理容師さんは、もう二度とこんな厄介やヒゲ剃りはしたくないと思ったのか、僕に顔の肌のケアをするようにアドバイスをしてくれた。話を聞いてみると、市販の化粧水なんかで保湿をしたら吹き出物も抑えられるとのことである。

 早速Amazonで評判の良さそうな男性用の化粧水を購入し、就寝前と起床後にぺちゃぺちゃと顔に塗りたくっていたら、イソギンチャクのサイズがみるみる小さくなっていき、一週間ほどで消滅してしまった。今まで僕はどちらかというと、「女の腐ったのじゃあるまいし、男がお肌ケアなんかできっかよ」というスタンスであったが、男女差別は良くない。これからは男も積極的に保湿をしていくべきである。

 最後に、おまえはイソギンチャク愛護主義者ではなかったのか、というツッコミもあるかもしれないが、あれは排除することができないならば共存するしかない、という消極的なスタンスであり、根絶する手段があるのならば容赦なく根絶するべきである。今となってはイソギンチャクにはなんの愛着も未練もない。はっきり言って邪魔だし。