まぬけじる日記

もうすぐ不惑を迎える男のまぬけな日常を描いた雑記です。Twitter:@manukejiru

寅さんは好き勝手に生きているくせになぜ「男はつらいよ」なのか

 今年の暮れに「男はつらいよ」の最新作が公開されるという。主役の車寅次郎を演じる渥美清が亡くなってから20年以上経っているのに、このタイミングで最新作を作るのかかとも思ったが、かつての寅さんのファンだった人達も、いつお迎えがくるか分からないので、その前にもう一度寅さんの復活をこの目で見たい!という声なき声に山田洋次監督が応じたという形なのだろうか。もしかすると山田洋次監督自身も遺作を作るつもりで撮影に挑んだのかもしれない。

 僕の飲み仲間のひとりに60歳手前のおやじがいるのだが、この人も一緒に酒を飲んで酔っ払うたびに、酒臭い息を吐きながら、「僕は寅さんになりたかった」と話す。この人は、たまに周りの女性に軽いセクハラ発言をして危なっかしいところもあるが、表向きにはお堅い職業に就き、二人の子を持つ良き家庭人であると言って良い。そんな人でも、仕事や家庭の軛から逃れて、寅さんのように自由に生きたいという衝動に駆られることもあるのだろう。というより、むしろそのような人々こそが「男はつらいよ」という映画を、車寅次郎という男を愛し続けてきたのではないか。車寅次郎という男は、仕事や家庭の責任から逃れられない昭和の男たちにほんの一瞬訪れる逃避願望を具現化した存在なのかもしれない。

 車寅次郎という男は、定職を持たず、日本中を旅しては、お祭りや観光地に顔を出して啖呵売をしている。行く先々で綺麗な女性に惚れてしまうのだが、大抵は恋に破れて逃げるようにして次の旅に出てしまう。身寄りは妹のさくらと、叔父さん夫婦がいるばかりで、叔父さんの営む団子屋に顔を出しては自分の恋愛沙汰に巻き込んだり、金を無心したりしている。

 一言でいえば駄目人間または社会不適合者である。車寅次郎がこれだけの男なのであれば、誰にも相手にされずに路頭に迷って野垂れ死にするのだろうが、話をしてみれば面白いし、変な愛嬌があるのだから逆にタチが悪い。結局は旅先で知り合った人や、叔父さん叔母さんや妹、挙句の果てには甥っ子にまで助けられてなんとか生きているという次第である。

 これだけ自分勝手に生きておいて、なにが「男はつらいよ」なのだと言いたくなるが、このタイトルは主役の車寅次郎に宛てられているのではなく、車寅次郎に自分の思いを託すことでしか自由になれた気がしない人たちに宛てられたものなのではないだろうか。

 話は変わるが、寅さんのような人は昭和のような時代よりも、今のような時代の方が生きやすいのではないかとも考える。インターネットのおかげで、寅さんのように定職に就かずに旅をしながら飯を食っている人もそれなりに出てきている。例えばカメラ一台持って啖呵売なんぞをやっている様子や、日本各地の祭りの光景なんかに寅さん節の実況をつけたりしてYoutubeにでもアップしたらかなり多くの視聴数を稼ぐことができるのではないだろうか。