まぬけじる日記

もうすぐ不惑を迎える男のまぬけな日常を描いた雑記です。Twitter:@manukejiru

ルカ・ドンチッチのプレーを通して「バスケIQ」とは何なのか考える

 バスケットボールの世界には「バスケIQ」という用語がある。バスケットボールは何よりも三次元的な高さが物を言う競技ではあるが、時としてこの「バスケIQ」の高い低いが試合の行く末を左右することがある。しかし、実社会においても「IQ」というのがどういうものなのかよく分からないのと同様に、具体的にどういうことを「バスケIQが高い」と評するのか漠然としているところがある。

 そもそも「バスケIQ」というのは、ただの「IQ」とは異なるものなのだろうか。バスケIQの高い選手=IQの高い人間という公式は成り立たないのだろうか。本記事の都合上、答えはノーであると言いたい。なぜならば、現役選手で言うと、ゴールデンステイト・ウォリアーズのドレイモンド・グリーンや、昔懐かしい選手で言うと、シカゴ・ブルズの黄金期を支えたデニス・ロッドマンといった選手は、バスケIQが極めて高いとされているのにもかかわらず、実際のIQは極めて低そうだからである。というのは半分冗談だが、バスケットボールは展開が非常に速いスポーツなので、頭で考えているとに試合が三手も四手も先に進んでしまう。バスケIQとは、頭もさることながら、細胞レベルの反射神経も大きく関わってくるが故に、普通のIQとは趣を異にすると考える。

 「バスケIQの高い選手」の代表例として、ルカ・ドンチッチというダラス・マーベリックスに所属する選手を紹介したいと思う。彼はNBAに入ってわずか2年目の選手だが、19歳という若さでNBA入りした昨季には新人王を獲得し、今シーズンもダラス・マーベリックスの中心選手として、去年は西カンファレンス14位という下から数えた方が早かったチームを4位という高順位に押し上げている。

 彼の凄さは個人成績にも現れていて、新人王獲得した昨季は21.2得点、7.8リバウンド、6.0アシストという主要な部門で軒並み好成績を残している。なんでもルーキーシーズンに平均20得点、5リバウンド、5アシスト以上の成績を残した選手はNBAの長い歴史の中でも彼を除いて4人しかいないそうである。その4人の中には、マイケル・ジョーダンレブロン・ジェームズという超レジェンド級の選手が名を連ねている。さらに驚くべきは、2年目のシーズンである今季は、現時点で28.8得点、9.5リバウンド、9.0アシストとどの部門でも成績を伸ばしているばかりか、もう少しで主要3部門全てで2ケタの成績を残してしまうのではないかという勢いである。そのこと自体は既にラッセル・ウェストブルックが3シーズン連続で達成してしまったので、今となっては有難味が失せてしまった感があるが、それまでは55年もの間、誰も成し得なかった記録であり、おそらく再びこれを記録する者は現れないであろう、とさえ言われていたものである。

 加えて言うのであれば、ウェストブルックは靴の中にジェットエンジンでも仕込んでいるのではないかと思わせるくらい異次元の俊敏性と瞬発力を持ち合わせている。方やドンチッチはどうかと言うと、身長201cm、体重104kgとNBA選手のなかではごく標準的な体格であるうえ、画面を通して見る限りではあるが、他の選手と比較して抜きん出て速いわけでもないし、跳躍力もないわけではないが、標準偏差の域内という感じである。

 そうなると、なぜドンチッチはウェストブルックに肩を並べられるほどの成績を残せるのか?という疑問が生じるわけだが、彼には身体能力の差を補って余りある「バスケIQ」の高さがある。それではわ具体的に、彼のプレーのどのあたりからバスケIQの高さが垣間見られるのか具体的に説明していきたい。

 ドンチッチの得意なムーブのひとつに、ステップバックからの3Pシュートというのがある。彼は卓越したシュート力に恵まれているが、守る相手もそれをよく知っているだけに、楽にシュートを打たせないよう距離をつめてガードされることになる。そこでドンチッチはドリブルで切り込むと見せかけてから、大きく後ろに下がって相手との間合いを十分に取ってからシュートを放つのである。このムーブに象徴されるように、彼は相手との間合いの取り方がとても上手である。間合いを詰める時は相手との強い当たりも辞さずに詰めていき、果敢にファウルを貰いにいくし、逆に引く時には常人ならバランスを崩しそうなくらいのステップバックをしてシュートが打ちやすいよう十分なスペースを確保する。バスケIQの高さの一つの要素として、相手や状況に応じて必要な間合いを取ることができるところが挙げられそうである。

 また、ドンチッチはとても広い視野を持っており、ボールを持っている時に多少相手に激しくディフェンスされていても、味方の空いている選手にパスを出すことができる。しかも、どこにボールを落とせば受け手がパスを取りやすいか、取った後にシュートが打ちやすいかがきちんと考慮されている。彼は前述の自分とディフェンダーの間合いだけではなく、どんな時もコート全体に目を配り、空いているスペースを見つけ出すのがとても上手いのである。彼のアシスト数の多さは、そのあたりの能力に裏打ちされているものだろう。

 上に挙げたようなプレーを可能にしているのは、ドンチッチの安定した精神が土台にあると見ている。彼はどんな時でも、それがまだ余力のある試合の序盤であろうが、緊迫した終盤であろうが、15年目のベテランような落ち着きを持ってプレーをしている。彼はまだ若いとはいえ、十代の頃からユーロリーグでプレーしておりプロ経験は豊富であるのだが、それだけでは彼の精神的な安定感、落ち着きっぷりを説明するのは不十分であろう。彼がどのようにしてあのような冷静さを体得するに至ったのかを知るにはさらなる調査が必要である。

 ここまで「バスケIQ」とは具体的になんなのか、ドンチッチのプレースタイルを通して思いつく限り挙げてみたが、もちろんドンチッチ以外にもバスケIQの高い選手は数多くおり、そのバスケIQの高さを示す特性は選手の数ほどあるわけで、当然本稿だけでバスケIQの全てを網羅できたわけではない。しかし、これを機にあまり具体的に語られることがなかったバスケIQについてより深く考えるきっかけになればと思う。

 そして、仮にあまりバスケットボールやNBAについて詳しくない人に本稿をお読みいただいたのであれば、とりあえずドンチッチのプレーを見たら、「バスケIQたけーな」と言っておけば間違いないことを私が請け負うものである。