まぬけじる日記

もうすぐ不惑を迎える男のまぬけな日常を描いた雑記です。Twitter:@manukejiru

マタニティマークは僕らに何を伝えたいのか

 カミさんが妊娠中に、妊婦仲間たちと「いかに社会が妊婦に優しくないか」という話をしているのを横で黙って聞くという貴重な機会に恵まれた。その実例のひとつとして挙げられていたのが、電車に乗っていても席を譲ってくれる人が非常に少ないというものだ。そのうちに、「特に中年の男性が酷い」などという流れになってしまい、いつの間にか僕が中年男性代表のような感じになってしまい、こちらに冷たい視線が向いてくるような気がして決まりが悪くなってしまった。なんとかその場を取り繕うと、「そんなにお腹も目立たないし、妊娠してるってことに気付いてないんじゃないの」などという苦しいフォローをしなくてはならない羽目になってしまった。僕に代表としてこのようなフォローを入れさせた全国の中年男性には、菓子折りの一つも持ってきてもらいたい気分である。

 これに対して、「いや、明らかにこのマークを見たはずなので気付いていないことはない」というのが彼女らの反論である。見てみると、「おなかに赤ちゃんがいます」というメッセージと、女性と赤ちゃんの絵の入ったキーホルダーのようなものだった。このマークを装着することにより、自分が妊娠していることを周囲の人に知らしめ、これを見た周囲の人はなるべくその人に親切にしてあげるのが望ましいということになっているようだ。確かに妊娠中はお腹に未成熟な人間を抱えているうえに、体調も安定しないので、周りの人間が色々と気を遣ってやらなければならない。僕もカミさんが妊娠したことにより、妊婦の大変さを目の当たりにするようになって以来、このマークを着けている女性を見かけたら、電車の席を譲ってあげるなど、なるべく親切にするようにしている。

 しかし、僕は自分の妻が妊婦になるまで、不勉強ながら妊娠という現象がどれほど女性の身体と心に負担を与えるかということについて全くの無知であった。無知どころか関心がなかったという方が正しいかもしれない。おそらく、妊娠から最も遠く離れたところにいる中年男性には想像が及ばないところではないだろうか。

 妊娠中の女性が本当に大変だというのは大袈裟でもなんでもなく、紛れもない事実である。特に少子高齢化、人口減少時代に突入している日本においては、社会的に見ても子供ひとりひとりが貴重な存在である。もう少し女性がデリケートな妊娠期間を快適に過ごせるような配慮があっても全くおかしくないと思う。そういう意味でも、このマタニティーマークの負っている使命は重大なのである。

 しかし、そんな重大な使命を負っているにもかかわらず、マタニティーマークがその役割を十分に果たしているかというと、必ずしもそうと言えないのではないかと感じている。冒頭述べられていたように、このマークを見ても電車の席を譲ってもらえないという現象が起きていることからも明らかである。席を譲らない男性も悪いが、見られても効果の上がらないマタニティーマークの方にも改善の余地があるのではないか。

 例えばこの「おなかに赤ちゃんがいます」というメッセージだが、これは単に事実を述べているだけに過ぎない。言ってみれば、「僕は二浪中です」とか「インドに旅行に行ってきました」という札を首から下げているのとなんら変わりがない。これだけ見せられても、「で?」としか思えない人もいるのではないだろうか。せいぜい、「そんなシャツ着てうろうろしてないで勉強頑張れや」とか「インド行けば人生観変わると思ったの?」などと心の中でひっそりと思うくらいだろう。残念ながら、世界は察しの良い人達ばかりで構成されているわけではないのだ。見る者に明確なメッセージを伝えたいのであれば、これを見て何をすべきなのか、という判断を向こう側に委ねるべきではないのである。

 また、このマークに描かれている絵にも問題がある。ここに描かれている女性も、赤ちゃんも、幸せそうに笑っているだけである。これでは見る者に対して、「笑ってるんだから別になんの問題もないんだな」という誤った印象を与えかねない。よってこれも改良すべきである。

 以上の2点を踏まえると、まずメッセージをもっと明確にすべきである。「席譲れ!」とか「道を開けろ!」とか命令口調でも良いのではないだろうか。フォントも太い毛筆で書いたような、力強いタッチにした方が良い。次に、このマークに登場する2人の絵をもっと切羽詰まった感じにしないといけない。例えば目を血走らせるとか、顔色を悪くするとか、こっちが何かしてやらないとダメなんじゃないかと思わせるようなものに変えるべきである。メッセージが命令口調なので、こちらに向かって指さしているような感じでもよい。ちょうどアメリカで戦争になった時に、徴兵のポスターに使われるアンクルサムのようなイメージを参考にするとよいのではないだろうか。