まぬけじる日記

もうすぐ不惑を迎える男のまぬけな日常を描いた雑記です。Twitter:@manukejiru

アメックスのプラチナカードの年会費の元を取る方法が分からない

 長年アメリカン・エキスプレスのグリーンをメインのクレジットカードとして使っている。アメックスを選んだのは、なんとなくカードのデザインがカッコいいからという理由である。緑色のクレジットカードなんて他ではあまり見ないし、その緑もエメラルドがかっていてオシャレである。また、ローマ兵のようなマスコットキャラも精悍で、この僕が持つに相応しいものである。その見栄えのために年会費12,000円を支払っていると言っても過言ではない。

 もちろん、アメックスの利点はそれだけではなく、例えば海外に出張や旅行で出かけたりする時などは、スーツケースを家から空港まで無料で送ってくれるサービスがあったり、カードラウンジが使えたりするので、それなりの恩恵は得ているつもりである。それくらいのことならば他のクレジットカードでもできるだろという意見もあるだろうが、同じサービスを受けるのであれば、少しでも見た目が良いカードを持ちたいというのが繊細な男心である。まあ、どんなにカッコよかろうが、所詮はアメックスのグリーンなので、他人にホレホレと見せびらかすこともなく、普段は日の目を見ることなく財布のなかでくすぶっているのだけれども。

 一方で、アメックスにも不便なところがあって、案外使える店が少なかったりする。10年ほど前に、シンガポールチャンギ国際空港で、乗り継ぎのために空港内に3、4時間ほど滞在することがあった。腹が減っていたこともあり、せっかくだから空港でなにか美味いものでも食べようと、色々な店を覗いてみたのだが、どこへ行っても「うちはアメックス使えまへん」とか「VISAカード持ってないのかよ」という対応をされてしまう。結局大変ひもじい思いをしながら、あの巨大なチャンギ空港で膝を抱えていたという思い出がある。

 今考えてみれば、横着せずに1,000円や2,000円くらいの現金をシンガポール・ドルに両替すれば良かったのにと思うが、おそらく当時の僕は、国際空港という晴れ舞台で、懐からアメックスを取り出して、颯爽と決済をするという夢に描いていた自分の姿をぜひとも現実のものにしたかったのだろう。それ故に両替した現金でチマチマ支払いをするなどということは思いもつかなかったのだ。まあ、こんな応用のきかない奴は、腹を空かせたままそこらで体育座りをしているのがお似合いである。


 さて、先日そんな僕の自宅にアメックスから大層な郵便物が送られてきた。銀色の封筒には「あなたが輝く瞬間に。メタル製プラチナ・カード」というキャッチコピーとともに「An Invitation to the Platinum Card」とある。

 アメックスのプラチナカード…。そういえば幼い頃、村の長老から、選ばれし者のみが持つ資格を与えられる伝説のカードがあるという話を聞かされたことがある。苦節20年、ようやく俺も選ばれし勇者に認定される時がきたかと喜び勇んで銀色の封筒をばりばりと開けると、中からこれまた銀色の冊子が出てきて、プラチナカードを持つ者だけに与えられる様々な特典が紹介されていた。主なものを挙げると、このようなものである。

 ・シャングリ・ラやマリオットホテル等の上級会員と同等の待遇(部屋のアップグレードやレイトチェックアウト等)を受けることができる。
 ・年に一度、日本国内の高級ホテルの無料宿泊券がプレゼントされる。
 ・世界1,200ヶ所以上の空港の高級ラウンジを使うことができる。
 ・日本国内の200のレストランで、2名以上の予約を入れると1名分のコース料金が無料になる。
 ・会員制スポーツクラブやスパの特典。
 ・非公開の文化財の拝観ができる。

 などなど、ここには挙げきれないほどの絢爛豪華たる特典が続々と列挙されている。

 自分にインビテーションが来たということは、天下のアメックス様が、僕がこれらの特典の恩恵を受けるに相応しい人間であると認めたということだろう。僕は冊子に目を通しながら、高級ホテルにステイする自分、会員制スポーツクラブで汗を流す自分、非公開の仏像の隣で座禅を組む自分の姿を思い描き、輝かしいプラチナライフに胸を踊らせていた。

 封筒の中にはご丁寧にプラチナカードの申込書が同封されていて、あとはこれに記入しさえすれば夢のプラチナライフが僕の手に入ることになる。はやる気持ちを抑えつつ、冊子の最後のページに目をやると、そこには妄想中の僕に冷水を浴びせかけ、襟首を掴んで現実の世界に引き戻す魔法の文言が書かれていた。

「年会費…13万円だと…?」

 年会費13万円。冒頭に書いたとおり、グリーンの年間費は12,000円。実に10倍以上の金額である。

 冷静になって考えてみると、僕はシャングリ・ラホテルなんぞ、40年弱の人生で一度も泊まったことがない。泊まることがないのだから、アップグレードもへったくれもないではないか。

 また、かしこまったレストランで外食をすることも年一度、あるかないかである。不倫相手でも見つけて、月に一度くらいのペースで高級レストランでの逢瀬を楽しむようなことでもしない限り、この特典の恩恵を十分に受けることはできないのではないか。そもそも、2名のうち1名分は無料になると言っても、もう1名分はお支払いしなければならないわけだ。不倫相手に「俺はタダなんだけど、君は自分の分は自分で支払ってくれ。最悪1人分を折半でもいい。」などと言おうものならば、一瞬で愛想をつかされるうえ、悪くすると、「あの人みみっちいのよね。プラチナカード持ってるのに。」などというウワサが立ちかねない。そういうことならば、日高屋のカレーが毎週一杯タダになるとか、立ち食い蕎麦屋で天ぷら一品付けられるなどの特典の方が遥かにありがたい。しかし、それでも年会費の額に達するまでカレーや天ぷらを食い続けるのは大変なことだろう。

 思うに、プラチナカードというものは、既にプラチナ的な人生を送っている人が、その人生をより充実させるためのカードなのではなかろうか。普段は庶民的で慎ましやかな生活を送っている人間が身の丈に合わないプラチナカードなんぞを持ったところで、それは宝の持ち腐れというやつに他ならないということである。

 なお、プラチナカードはアメックスから選ばれし人間のみに持つ資格が与えられると村の長老が言っていたが、それはどうやら長老のガセネタで、審査に通りさえすれば、誰でも持つことができるものらしい。それを見てなおさらプラチナカードを持つ決意が薄くなってしまったわけだが。