まぬけじる日記

もうすぐ不惑を迎える男のまぬけな日常を描いた雑記です。Twitter:@manukejiru

会社員が闇営業をやったらどうなるか考えてみた

 年に数回、仕事の関係で講演を頼まれることがある。日本全国津々浦々から講演の依頼があるので、僕にとっては普段行くことがない地方に行くことができる貴重な機会である。
 講演をすると大抵謝金が支払われるのだが、この謝金は僕個人ではなく、僕の会社に対して支払われるということになっており、どんなに多くの件数の講演をこなしたとしても、僕には一銭も入ってこないシステムになっている。これは会社がそう取り決めているので仕方のない話なのだが、「ちくしょう、これを搾取と呼ばずしてなんと呼ぶんだ」と思わないと言えば嘘になる。「俺が個人的に講演を引き受けたらこの謝金は総取りできるんじゃないか?」という考えが頭をよぎらないこともない。
 僕自身がそのような立場に置かれているので、吉本興業の芸人が事務所を通さずに個人的に仕事を引き受けてしまうというのも分からない話ではない。まして吉本興業は芸人に対する金の支払いが相当シビアなところだと聞く。ある程度の知名度を得たら、自分の看板で仕事を取ってくるくらいのことはあってもいいだろう、と考えるのも無理からぬ話ではなかろうか。
 その一方で、僕が会社に黙って講演を引き受けたとして、行った先が反社会的勢力であることが分かった場合、どのように身を処すべきかというのは非常に悩ましい問題である。まあ仕事内容からして、反社会的勢力が僕の講演を聞きたがることなどありえないのだが、万に一つの可能性としてシミュレーションしてみたい。
 例えば、講義を行うためドアを開けたら、部屋の向こうにはスキンヘッドやパンチパーマのおっさんがずらりと並んでいて、なぜだか知らないが上半身裸になって入れ墨を見せつけてくるような手合までいた、なんてことがあった場合、僕の性格上、「あ、皆さん反社会的勢力ですね。僕はこういう仕事は受けませんのでさようなら」ときっぱり言うことはできないと思う。きっと、「やべえ・・・やべえよ」と脚と声を震わせながら一通り話すことはしてしまうのではないだろうか。
 百歩譲って講演をしてしまったのは仕方ないとして、それを終えた後に、主催者側から「やあやあ、お疲れさんでした」と熨斗袋に入った金一封をぽんと渡されたとして、それをお断りすることができるだろうか。「いやあ・・・こういうものは受け取れませんので」などとやんわりとお断りしたところで、結局最後は「いや、せっかくお越しいただいたんだから」などと半ば強引に金を掴まされてしまいそうだ。
 かと言って「おまえらみたいな外道から金をもらう筋合いはねえよ」と下手な啖呵を切ったところで、向こうは啖呵の専売特許だからいいようにやり込められてしまうだろう。下手をすればゲンコツの一発や二発、あるいはもっと強烈な報復が待っているかもしれない。
 そのように考えると、やはり俗にいう「闇営業」のようなことはしない方が良いのだろうなと思い至った。会社が間に入ってくれれば、相手が反社会的勢力かどうかのスクリーニングはある程度やってもらえるのだろうし、仮に知らずに仕事を受けてしまったとしても、反社会的勢力と接近した責任は会社が負うことになるからだ。

 話は少し脱線するが、芸人が事務所に黙って仕事を取ってくるのを「闇営業」と呼ぶことを一連の騒動で初めて知ったが、吉本興業問題の経緯を見聞きしていると、一口に「闇」と言っても、本件に関する「闇」は二つあることが分かる。一つ目の闇は、芸人が事務所を通さず、勝手に仕事を取ってきたこと。二つ目は仕事を取ってきた相手が反社会的勢力であったことである。
 この二つの闇は、全く異なる類のもので、本来は切り離して議論がなされるべきもののはずだが、どういうわけかこれらを混同して議論されていることが多いような気がする。しかも、これは個人的な感想だが、間違って混同しているのではなく、敢えて混同することによって、問題の本質をぼやかそうとする意図を感じるのは僕だけだろうか。